セバスチャンの身の丈に近いグレート・ピレニーズの“ベル” (C)2013 RADAR FILMS EPITHETE FILMS GAUMONT M6 FILMS ROHNE-ALPES CINEMA
セバスチャンの身の丈に近いグレート・ピレニーズの“ベル” (C)2013 RADAR FILMS EPITHETE FILMS GAUMONT M6 FILMS ROHNE-ALPES CINEMA

雄大なアルプスを望む村で学校にも通わず祖父と暮らす少年と野犬化した大型犬グレート・ピレニーズとの物語。1981、82年に放映された「名犬リジョイ」の原作に、N・ヴァニエ監督が第二次世界大戦末期の時代設定とナチス・ドイツ軍とのかかわりを挿入して映画化。まだ見ぬ母を慕う孤独な少年が大型犬との信頼関係を強めていくことで、勇気希望へ一歩踏み出していく。

7歳の少年セバスチャン(フェリックス・ボシュエ)は、アルプスの麓の村で祖父セザール(チェッキー・カリョ)と亡くなったセザールの妹の娘アンジェリーナ(マルゴ・シャトリエ)と暮らしている。生まれた時から母親を見ていない。セザールは、「山向こうの国アメリカへ行っていて、クリスマスに帰ってくる」とセバスチャンに答えるが、まだ一度も帰ってこない。セザールは、セバスチャンを学校に通わせず、羊を守るため山に連れていき家の仕事を手伝わせている。なぜか母親の秘密を隠し続けるセザールの苦悩する姿をアンジェリーナも心配する。

友達のいないセバスチャンは、ある日山で灰色の大きな犬と出会った。村で羊や人間を襲うと噂されている“野獣”だと直感し、身動きできない。だが、“野獣”はセバスチャンを見ても襲うそぶりも見せない。セバスチャンは優しく話しかけてみる。だが、ほかの人間の気配を感じると、“野獣”は静かに山の中に姿を消していった。

山で出会った大きな犬が“野獣”とは信じられないセバスチャンは、セザールが仕掛けたワナの場所を教えようと山の中を探しあるく。ようやく再会でき、ワナの危険を教えたことから次第に慣れあっていくセバスチャンと“野獣”。川で水遊びしていると汚れが落ちて白い毛並みが現れたのを見て、セバスチャンは“ベル”(美しい)と名付けた。

セザールとセバスチャンはユダヤ人たちの冬のアルプス越えを助けようとするが… (C)2013 RADAR FILMS EPITHETE FILMS GAUMONT M6 FILMS ROHNE-ALPES CINEMA
セザールとセバスチャンはユダヤ人たちの冬のアルプス越えを助けようとするが… (C)2013 RADAR FILMS EPITHETE FILMS GAUMONT M6 FILMS ROHNE-ALPES CINEMA

そんななか、レジスタンスがユダヤ人をかくまいスイスへ越境させているのを取り締ますためドイツ軍が村にやってきた。パン屋を営んでいるアンジェリーナに、毎週30Kgのパンを用意するようにと命じるピーター中尉(アンドレーアス・ピーチュマン)。アンジェリーナは、恋人で医師のギヨーム(ディミトリ・ストロージュ)がレジスタンスでユダヤ人の逃亡を援助していることに気づかれないか気をもむ。

山を探索する2人のドイツ兵が、遊びにライフルで雌鹿を狙って撃ち始めた。「やめろ!」と叫び、小石を片手に手向かうセバスチャンだが、ドイツ兵に簡単に抑え込まれてしまう。それを見たベルが、ドイツ兵に噛みつき大けがをさせてしまう。翌朝、ドイツ軍の命令で村人50人が“野獣”狩りのために山に向かう。心の友“ベル”を助けたいセバスチャンは、捜索に行く地域をセザールから聞き出せたのだが…。

動物との心の絆が、少年を見守りたくましく成長させるストーリー展開の代表作の一つ。アルプスの大自然そのものがアドベンチャーな次々に起こす。自然と動物と人間との関係にとどまらず、原作にはない戦争と人種差別の物語が挿入されシンプルな人間性の成長だけでなく理不尽な社会へと一歩踏み出していく厚みも盛り込まれている。それでいて、押しつけがましくない演出とセバスチャン役フェリックス・ボシュエ少年のナチュラルな演技。家族で安心して観劇ができ、存分に魅せられる作品。 【遠山清一】

監督:ニコラ・ヴァニエ 2013年/フランス/フランス語・ドイツ語/99分/原題:Belle et Sebastien 配給:ミッドシップ、コムストック・グループ 2015年9月19日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.belleandsebastian.net
Facebook https://www.facebook.com/belleandseba